2021年7月、静岡県熱海市伊豆山を襲った大規模な土石流災害。
あの衝撃的な映像を覚えている方も多いでしょう。
家々を飲み込み、多くの犠牲者を出した災害の背景には、不適切な「盛り土」の存在が指摘されました。
なぜ、積み上げられた土が一瞬にして牙を剥いたのでしょうか?
CBCテレビの報道番組「チャント!」では、その背後に潜む恐ろしい自然現象「パイピング現象」について、地盤工学の権威による解説とともに報じました。
盛り土が「排水システム」を塞ぐ蓋に
静岡県熱海市で起きた土石流災害で、被害を大きくさせた要因として指摘されているのが、大量の盛り土。


地盤工学を専門とする名古屋工業大学の松岡元名誉教授は、現場の地形的要因を指摘します。

本来、自然の谷筋には、雨水が土の中を通って表面へ逃げる「水みち」という天然の排水システムが存在します。

しかし、そこに人工的な盛り土がなされると、盛り土がその出口を塞ぐ「蓋」のような役割を果たしてしまいます。
発生現場と山の上部には大きな高低差があり、これが盛り土の底部に凄まじい「水圧」を生じさせる原因となりました。

実験で判明した「パイピング現象」の恐怖

その盛り土が土石流になった原因として、「パイピング現象」という自然現象が考えられています。
一体どんなものなんでしょうか。
番組では、砂と水槽を使った実験でそのメカニズムを再現しています。
砂を敷いた水槽の真ん中を板で仕切り、左側を山に見立てて、雨が降り続いた想定で水位を上げていく。
ある時点で、砂の中にパイプ状の水みちができて、下流に見立てた右側に一気に砂を噴き上げます。


さらに分かりやすく、水に色をつけて実験しました。
左側の水圧が高くなった方から右側に向かって、水が砂の中でどんな経路を通って噴き出すかがよく分かります。
水位差が大きくなると砂は浮いて、一気に崩れて穴が開きます。


まとめるとこのように言えます。
- 水圧の上昇: 大雨によって盛り土の背後に水が溜まり続ける。
- 限界突破: 今までは盛り土の重さ(抵抗)が勝っていたが、ある瞬間、水圧がそれを上回る。
- 噴き出し: 土の中にパイプ状の水の通り道ができ、内側からドーンと土砂を噴き上げる。
これが「パイピング現象」です。
松岡教授は、
松岡元名誉教授「単に土が崩れたのではない。水圧で一気に押し出されたからこそ、あのような激しい勢いになった」
と分析しています。
土石流を防ぐために必要だった「3つの対策」
この悲劇を未然に防ぐ手立てはなかったのでしょうか。
専門家は、盛り土を造成する際に、自然の摂理に抗わない以下の施工が重要だったと指摘します。
- 砕石(さいせき)の活用:
- 砕いた石を入れた土のうを敷き詰めることで、水の通り道を確保する。
- 水抜き穴の設置:
- 盛り土内部の圧力を逃がすための排水管を適正に配置する。
- 擁壁(ようへき)の構築:
- 盛り土が崩れないよう、砕石を裏込め材とする擁壁でしっかり支える。



「自然のその絶妙な循環・排水システムを冒すようなことを人間はやってしまう。大自然を怒らせることの恐ろしさ。
ぜひ繰り返さないようにしたい。」
まとめ:今、私たちにできること
熱海の教訓は、「見えないリスク」への警戒です。
何も整備されていない盛り土は、東海3県を含め全国各地に存在します。
大雨の際、自分の住む地域の盛り土がどうなっているのか。
自治体による「盛り土の総点検」を急ぐとともに、私たち一人ひとりが地形のリスクに関心を持つことが、次の犠牲を防ぐ第一歩となります。
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「熱海土石流災害から学ぶー土砂災害から命を守るための提言」はこちらからご覧いただけます。

